ホームD
ホームの一つ。
7・8番のりばがある。
「……電車の中の人が、ですか?」
ずっとあなたを?
スマホも見ずに、ですか。
「明かりも見えないってことは、もう行ってしまったんでしょうけど……」
それとも。
「まだここに居るんですか?」
視線の主が。
>>9787
「い、いましがた、電車がとまって」
「それに、ずっと見られて、いて……」
声の音量がちょっと不安定。
マスクもしてるからか、もしくは喋るの慣れてないからか。
アナウンスもなく電車が止まった。行先は■■■■行きらしい。
……考えているうちに何処かへ去って行った
「………電車、通ったっけ」
今の時間。時刻表とかどっかないかな
「どうも」
ぺこりと頭を下げる。
「巡回、お疲れさまです」
視線をそちらに向ける。
なんか落ち着かない感じに見えた。
気のせいかもだけど。
「……何か異変見つけましたか?」
夜のホームって、こんなに暗かったっけ……。
カチ…カチ…
スイッチを触っても灯りのつく気配はない。
ただ、向こうにひとり。
ぼんやりと立ってる人影だけが、ぽつんと浮いてみえる。
「………」
『もしもし もしもし もしも~し』
『ジリリリ ジリリリ~』
『ザカザカ ザカザカザカ』
『俺、今10mぐらい離れた所にいるの……』
………
「………」
「……、はは」
釣られて笑ってしまっていた。
顔色も少し、良くなったように見える。
単純に二倍懐中電灯パワーでよく照らされているのもあるかも知れないが。
「……貰ってばっかりになっちゃうな。
でも、俺は貰えるものは貰っちまうタチでね。
その言葉の通りに、させてもらうさ。」
「ああ、お互いがんばろーか。
俺もルール上全く違反のない健全な活動に、もーすこし励んで寝に行くよ。
……それじゃ、おやすみ。」
手を振って見送る。両手で。
両脇に懐中電灯を抱えてるのでバランスのためだった──
「あ、これもあげる」
「やな仕掛けくらったときにでも食べて元気出して」
一度足を止めたかと思えばあなたに物をおしつけて。
今度こそ巡回の続きへ戻った。
脇に挟み始めたのを見れば今度こそ笑いが大きく弾けた。
深夜の、やや不気味なホーム。
その空気を飛ばすような平生の空気。純粋な明るい笑い声。
「どういたしまして」
「じゃ、あたしまだまだ色んなとこでトランシーバーに語りかけてくるから。
サトノボくんも頑張ろうね、人工怪奇現象作り」
業務の続きへ戻ろうと、暗がりへ踵を返して。
「じゃあいくか…………」
ノッてしまった。
挟めばいいと言われれば、なるほどと、
懐中電灯を脇に挟む…… ……何か違う気がする。
「ああ、なるほど。順調に特別報酬溜まってんね。」
「それじゃあ、頂かせてもらう。
……懐中電灯、急に切れることもあったしさ……
予備があるって意味でも心強い。」
「…… どうもありがと。」
色が、ピンクなのは…… ……(ここで何度か瞬き)
まあうん。小さく頷いて、よしとしていた。
「…………」
「いけてる!」
そうか?
やっぱり笑いながら、どこかに懐中電灯の二つ目は挟めば良いのかもと付け加えた。
それよりも笑いの方が勝っていたけれど。
「ま、あたしは今日の仕事おわったらまた新しい懐中電動買うから」
「それは適当に買っちゃったから色もっとちゃんと選ぼうかなって思って」
渡した懐中電灯の持ち手はピンク色。
もしかするとあなたの好みではないかもしれないが、まあ、まあ。
「に、苦手では…… ちょっ 笑うなよ こらっ」
あーだのいーだの零していた頃に、差し出されたそれには目を丸くした。
「え。……」
「…… 気持ちは…… ありがたい。キョウカの方は光を失うことになるってのに、さ。」
「でもこれ懐中電灯二つとトランシーバー一つの三刀流になるかも……」
受け取って、ちょっと持とうとしてみる。
トランシーバーは肩と頭で抑え、両手には懐中電灯。ピカー……
「………」
「いけるか……?」
「苦手なんだ」
流石に理解。
ひとしきり笑えば、ふと思いついたように手にしていた懐中電灯をあなたに差し出した。
「じゃ、これサトノボくんにあげる」
「もうちょっと明るかったら怖いのマシになるんじゃない?」
今日の業務が終われば新しいものを買えば良いか、と考えつつ。
「指は……ゴム製とかで仕込まれてたんだろう。それか放置されたラーメン。」
「ねずみ、は…… いやだな、……この環境だと全然ありそうでいやだなあ……」
「…… ん……」
「え。にに、苦手じゃないが……」
「深夜の散歩だって?してたし、出来るし……」
本当に怖いのが大丈夫な人間の口っぷりではないことは明白かも。
「ここの、作為が、ちょっと……悪質な……だけだ。俺の耐性以上に。」
「大量の指……ええ、やだな……」
「……何かが足元~は、大体ねずみとかだから……うーん、でもこれもいやだよね」
お化け屋敷で見て、普通に嫌な気分になるものたち。
この女はあまりそういったものは見ていないが、他の皆もそういうものばかり見ているのだろうかと想像すれば、皆の疲れ具合も何となく理解はできた。
己が幸運なだけなのだ、きっと。
「やだね、お疲れ様かも」
「……サトノボくんってこわいの、苦手な方?」
「……… そーだなあ……」
「大量の指……みたいなのが、見えた気がしたやつ……」
「何かが足元を、這っていったような気がしたやつ……」
「その辺は…… 大分、嫌だったな。
理由が人間の仕掛けでも嫌なやつらだ。」
「ん……… ………」
「大丈夫では……ある。今日はまだマシな方で……
そんなに悪質な仕掛けには出会ってないんでね。
床と壁に落書きが~とか、汚い足跡とか、電話の音とか……
まあ幾らでも理由をつけて片付けられそうなのばかり。」
「ええ、それはちょっと普通にびっくりするかも……」
そうでなくてよかった、とあなたを見れば、その顔色にひとたび口を噤む。
こんなにも暗いからか、とも思うけれど。
「……大丈夫?サトノボくん」
「しまったな……」
「一旦隠れてから〈こ~こ~だ~よ~〉ってやったらまた報告書チャンスだったか」
「すまないね。チャンスをみすみす逃しちまって……」
形のみの謝罪の雰囲気。
「………」
「…… 変わんないなあ」
軽口を叩けるぐらいの声色ではあるが、
こちらの顔色は、少なくとも朝よりは悪かった。
「やっほ」
同じく、トランシーバーを持った方の手を上げて。
そこから声が届かなくとも、既に耳に直接届く距離なのだから。
「……これで、もしこの先にサトノボくんいなかったらどうしよって思ったけど」
「いないわけないよね、そりゃそう」
深夜のホームの中でも、この女は朝と同じく随分と平和な顔をしている。
『なるほど。これまで会わなかったのはズレてたからだな』
『太陽が出るまでか。正しく夜勤やってんね』
『お……』
段々と迫ってくる光を見たのか、
交差する光は固まったまま。
電灯の持ち主は立って待っていた。
「…… や」
と、手を……トランシーバーを持っていた方の手を挙げた。
「あたしは大体このくらい」
「それで朝まで巡回して、それで寝るんだよね」
光の先を目で追う。きっとこの先に懐中電灯の持ち主がいるのだろう。
せっかくだからその顔を見ようか、とそちらへ歩を進める。