ホームC
ホームの一つ。
5・6番のりばがある。
まだそっちにいるの?
ほらお迎えがくるよ
ここは駅だもん
そろそろ座ったら?
ずっと歩き回ってて疲れたでしょ?
「………。」
何も言わない。静かに歩いている。
表情はやや青いが。
けど、じっとしていたら駄目だよな、うん。
そうしていても、何も変わらない、し。
「ええっと、あの」
「…」
「その、さ、一旦。一旦、切り上げて、休憩しませんか」
声はしない、そもそも、傍から見れば一人で話しているように見えるだけだ。
また、静寂
「え、あ」
「先に戻っていて?」「ついていくから?」
「…分かり、ました」
また、ふらふらと歩くようにして、この場を離れて行ったか。
「………」
いよいよ、行く宛ても無くなった、という状況か。
人影はずっと線路の方に立っている
ずっとこちらの様子を伺っている。
「…」
「どうしよう」
動こうにも、足が竦んでいる気がする。
>>×
「…」
「あ、は、はは」
行先が自分で、線路の上でお待ちくださいの嫌なアナウンス、極めつけに、自分のような影が、『待っていた』
「ははは…」
「無理だよこんなの…」
居るように思っているのか、居ないと分かっているのか。
どう転がっても、恐ろしいものであるのは確かだ。
「え」「あなたは」
「そっち側に行くんですか?確かめに?」
「……」
「ごめんなさい、僕には、ちょっと、流石に無理です」
「来ないと分かってても、その」
立っている、ホームの上に。そこから動けそうに無い。
>>◾︎◾︎
「……」
「ええ、タチが悪いですよね」「いえ、まあ、僕はずっと、こう言っている気がしますが」
「そう、ここってタチが悪いものしかないんですよ」
「不衛生だったり、下品な落書きがあったりとか」
「画鋲のある椅子だとか」「現代アートとか」
「あと、トランシーバーの音も時々するらしくって」「それと、古い名札とか」
見たもの、誤魔化したものの羅列。
羅列していく。けど、それで誤魔化せる心なら異常からは程遠くなっていただろう。
誤魔化しきれないから、こうなっている
いや、これも大きな誤魔化しである
「本当に、あと半分、持つので」
音質の悪い到着音が鳴る
とても悪い、間延びしたような、不協和音のような。
『電車が参ります。線路の内側に立ってお待ちください』
静かに、線路の方を見た。
見たのがいけなかった。
『自分』のような何かが、線路の向こう側に立っていた。
>>(?)
「けど、その、思っている事があるんですよ」
「目も口も、あった時に、遠くにあなたが居たじゃないですか」
「どうしてこういう事が出来るのに、やらなかったのですか」
「もっとはやく来てくださったら、苦しいことを考えずに済んだのに」
「人に迷惑をかけずに済んだのに」
正常からは程遠くなっている。
影が見える事が異常であるのにも関わらず、人であるかのように見る。
「……」
ライトの光が、壁一面を埋め尽くす助けて、の文字を照らし出した。業務用の懐中電灯だ。本当に一面だと分かる。
光が強すぎて、大きく上に向けないと、逸らせなくて、電光掲示板を照らす。
照らした。
照らした先の文字、行先はこう書かれていた
『やまなみ 行き』
「は、はは」
乾いた笑いだ。
>>
かつん、かつんと歩く。駅のホーム。手馴れた物だ、慣れてはいない。
懐中電灯で辺りを照らしながら、周囲を見る。
「ええ、そう、あの目があって、怖くて」「それで、その、僕が、足を引っ張っていないか不安で」
「早く切り上げられたり、ここで終わろうって僕が切り上げたりしちゃって」
「そう、抜けない不安です」
「みんな、言うんですよ、困ったことがあったら助けてでもなんでも声を出して言えばいいんだって」
「相談すれば良いんだって」
「でも言えませんよ、言えたら、もっと早くに、言えるはずなんです、そうに、違いありませんから」
そこには何も居ない、誰かいるような独り言。
「あなたって、もしかして歩くのがゆっくりめなんですかね?」
「……」「ああ、いや」
「気にしないでください」
自分の足音が、遅れて聞こえる気がする。
ふらふらと歩いている。宛があるように見えない。
けど、こちらには宛がある。
先も見えずに歩いている、薄暗さも重苦しさも気にせず歩いていく。もう、目も口も見えなくて、真っ黒だが。
そう、真っ暗。見えない、昨日までは見えていた目、刺さるように追い詰めていた目線が。
「………」
「あなたが消してくださりましたか」
何も無い。のに、なにか見えているように
少しの静寂。
「………」「ありがとうございます」
「あの目が、口が、えっと、その」
「怖かったので」
「アレがあると、出来ることもできなくて」
虚空に向かって会話する。
「……」
「え?巡回?」「良いんですか?」
「お願いします」
何もいないにも関わらず、誰かいるように。
そのまま、巡回ルートへ
どこか期待してしまっている自分がいる。
あの人なら、と。
名前すら聞いていないのに?
また、誰かに取られる可能性があるのに?
そんなことを思いながら寝床にもどるだろう。
「ずっと暗い中いるっすから時間感覚は狂いそっすね」
定期的に時計は確認しているが、感覚の問題だ。
「はいはい」
「おやすみなさい」
今日はすんなり解散するかな。
なに。こちらから蒸し返すこともない。
人前となればことさら。常識はある方。
蒸し返したくなったらこちらにおいで。
「……そうですね、もう遅いですし」
ちらりと腕時計を見る。
深夜も深夜いい頃合いだろうか。
以前別れる前に話したことを蒸し返されないかヒヤヒヤしていたのは秘密である。
「おやすみなさい」
別れたあとに、名前を聞き忘れたな、などと思うだろうか。
「クソ………捻くれた若者め………」
おっさんに片足突っ込んでいます。
「あばよ あんたの食べるものが栄養バーくらい不味いものだらけになることを祈ります」
「僕もそろそろ寝に向かうっすかね〜」
伸びっとした。
「ちくしょ~~~俺の知識を疑いやがって~~~」
「じゃあ俺も、もー誰も信じません」
捻くれた最近の若者だ。
「あー、朝が近付いている気がしちまう。
真面目に巡回してやろうかな。
あばよ、諸君……」
「引っかかっちゃいけない類の売り文句なんだよなあ……」
「まあ……手を動かしたいタイプってことか。
そういうことも……あるだろうよ」
「そうやって諦めてるから進歩がないんすよ」
「夢はでっかく、目指す方へ」
ドヤ……
「すごい落ち着かないじゃないですか、どうしたんすか」
「巡回中なのはそっすね。もう終わっててしばらくホームでのんびり過ごしてたっすけど」